第2章![]()

ISD条項で政策変更迫る――全世界の労働者が反対
第1章では政治的・軍事的な争闘戦の観点からTPPを分析・批判したが、第2章では経済的な争闘戦の観点を中心にTPPを分析し、労働者階級への影響とそれへの反撃の闘いの正義性・死活性について考察したい。
TPPはもともとはニュージーランド、シンガポール、ブルネイ、チリの4カ国間の協定(P4)で、取り立てて注目をひくものではなかったが、08年に米国が正式参加し、投資・金融サービス分野の交渉が開始されることで拡大し、質的に一変した。アメリカ帝国主義主導の経済連携協定に生まれ変わったのだ。
1章で述べたように、世界大恐慌と基軸国としての没落の危機にあえぐアメリカ帝国主義は日米同盟を深化させ、日帝を補完的に動員することで対中対決に踏み切り、アジアを自らの勢力圏としようとしている。そしてそのためにTPPを中国に対する争闘戦の武器として使い切ろうとしている。
一方、大震災と福島原発事故の爆発によって帝国主義間争闘戦から脱落状態に陥った日帝・野田政権も「『アジアの成長』のバスに乗り遅れるな」などと言って、支配階級内部や与党内部の分裂情勢さえ押し切ってAPECの場でTPP参加を表明した。野田は日米同盟の深化を自らも選択し、その中にしか断末魔の危機にあえぐ日帝にとっての延命の道はないと、決断をもってTPP参加に踏み込んだのだ。
TPPはもともとはニュージーランド、シンガポール、ブルネイ、チリの4カ国間の協定(P4)で、取り立てて注目をひくものではなかったが、08年に米国が正式参加し、投資・金融サービス分野の交渉が開始されることで拡大し、質的に一変した。アメリカ帝国主義主導の経済連携協定に生まれ変わったのだ。
1章で述べたように、世界大恐慌と基軸国としての没落の危機にあえぐアメリカ帝国主義は日米同盟を深化させ、日帝を補完的に動員することで対中対決に踏み切り、アジアを自らの勢力圏としようとしている。そしてそのためにTPPを中国に対する争闘戦の武器として使い切ろうとしている。
一方、大震災と福島原発事故の爆発によって帝国主義間争闘戦から脱落状態に陥った日帝・野田政権も「『アジアの成長』のバスに乗り遅れるな」などと言って、支配階級内部や与党内部の分裂情勢さえ押し切ってAPECの場でTPP参加を表明した。野田は日米同盟の深化を自らも選択し、その中にしか断末魔の危機にあえぐ日帝にとっての延命の道はないと、決断をもってTPP参加に踏み込んだのだ。
農業・医療以外も全生活領域に影響が
現在日帝を除く9カ国で協議が進められているTPP交渉では24の作業部会が設けられているが、これらの部会は分野としては一つにまとめられるものも含まれている。このような会合を整理すると、分野としては21分野となる。
1 物品市場アクセス 1 物品市場アクセス
2 原産地規則 2 原産地規則
3 貿易円滑化 3 貿易円滑化
4 SPS(衛生植物検疫)4 SPS(衛生植物検疫)
5 TBT(貿易の技術的障害)5 TBT(貿易の技術的障害)
6 貿易救済(セーフガード等)6 貿易救済(セーフガード等)
7 政府調達 7 政府調達
8 知的財産 8 知的財産
9 競争政策 9 競争政策
10 越境サービス貿易 10 越境サービス貿易
11 商用関係者の移動 11 商用関係者の移動
12 金融サービス 12 金融サービス
13 電気通信サービス 13 電気通信サービス
14 電子商取引 14 電子商取引
15 投資 15 投資
16 環境 16 環境
17 労働 17 労働
18 制度的事項 18 制度的事項
19 紛争解決 19 紛争解決
20 協力 20 協力
21 分野横断的事項 21 分野横断的事項
これを見れば一目瞭然だが、現在反対運動が大高揚している農業・医療だけでも大問題だが、TPPはそれに加えて労働者階級人民の全生活領域に影響を及ぼす全階級的な大問題である。
TPPは単なる貿易協定ではない。貿易はその小さな一部にすぎない。TPPとは、参加各国の歴史的に形成されてきたあり方のそのものを、新自由主義に都合のいいように根本的に変更することを迫る一大反革命なのだ。
野田は「医療制度と農村を守り抜く」などと言っているが、11月12日にオバマは現在協議中の9カ国の間で「大筋合意に達した」と発表した。その詳細は不明だが、「包括的な市場アクセス、財・サービス貿易や投資について関税や他の障壁を撤廃する」「すべての貿易関連分野を対象とした一括的な交渉を進める。従来の自由貿易協定(FTA)が対象とした問題への伝統的な手法を改定するとともに、新たな貿易問題や分野横断的な問題も加える」などとしており、今までのFTA以上に米帝主導の包括的なものになることは間違いない。
日帝が交渉に参加するとしてもアメリカ議会の承認が必要であり、早くとも半年後になると言われている。オバマは2012年中の決着を表明しており、日帝にとって、すでに9カ国で決まってしまっている条項を飲むか飲まないかの二者択一を迫られることになる。
1 物品市場アクセス 1 物品市場アクセス
2 原産地規則 2 原産地規則
3 貿易円滑化 3 貿易円滑化
4 SPS(衛生植物検疫)4 SPS(衛生植物検疫)
5 TBT(貿易の技術的障害)5 TBT(貿易の技術的障害)
6 貿易救済(セーフガード等)6 貿易救済(セーフガード等)
7 政府調達 7 政府調達
8 知的財産 8 知的財産
9 競争政策 9 競争政策
10 越境サービス貿易 10 越境サービス貿易
11 商用関係者の移動 11 商用関係者の移動
12 金融サービス 12 金融サービス
13 電気通信サービス 13 電気通信サービス
14 電子商取引 14 電子商取引
15 投資 15 投資
16 環境 16 環境
17 労働 17 労働
18 制度的事項 18 制度的事項
19 紛争解決 19 紛争解決
20 協力 20 協力
21 分野横断的事項 21 分野横断的事項
これを見れば一目瞭然だが、現在反対運動が大高揚している農業・医療だけでも大問題だが、TPPはそれに加えて労働者階級人民の全生活領域に影響を及ぼす全階級的な大問題である。
TPPは単なる貿易協定ではない。貿易はその小さな一部にすぎない。TPPとは、参加各国の歴史的に形成されてきたあり方のそのものを、新自由主義に都合のいいように根本的に変更することを迫る一大反革命なのだ。
野田は「医療制度と農村を守り抜く」などと言っているが、11月12日にオバマは現在協議中の9カ国の間で「大筋合意に達した」と発表した。その詳細は不明だが、「包括的な市場アクセス、財・サービス貿易や投資について関税や他の障壁を撤廃する」「すべての貿易関連分野を対象とした一括的な交渉を進める。従来の自由貿易協定(FTA)が対象とした問題への伝統的な手法を改定するとともに、新たな貿易問題や分野横断的な問題も加える」などとしており、今までのFTA以上に米帝主導の包括的なものになることは間違いない。
日帝が交渉に参加するとしてもアメリカ議会の承認が必要であり、早くとも半年後になると言われている。オバマは2012年中の決着を表明しており、日帝にとって、すでに9カ国で決まってしまっている条項を飲むか飲まないかの二者択一を迫られることになる。
全世界の労働組合のTPP反対の理由
TPPが労働者階級・人民にとっていかなる意味を持つのかは、そのさきがけであるNAFTA(北米自由貿易協定)や、アメリカと他の2国間のFTA、および10月12日にアメリカ議会で可決され、韓国でも11月22日に与党ハンナラ党が圧倒的反対を押し切って強行可決した米韓FTAの内実を見れば明らかだ。
以下、各国の労働組合がTPP反対を唱えるに至った具体的事実を暴露しよう。
NAFTAはアメリカ、カナダ、メキシコの3カ国の間で1994年に発効した自由貿易協定だが、その結果アメリカ国内では76万6千人の雇用が奪われた。一方、メキシコでは多くのアメリカ企業が進出することで21%も賃金水準が低下した。
さらにNAFTAの結果設定されたマキラドーラなどの輸出加工区(EPZ)や特区では税などの優遇だけでなく、団結権が制限されていたり、労働基準や環境基準が他の地域よりも弱められていて、それで外国企業を誘致しようという例が少なくない。
その上で、NAFTAで導入されたISD(投資家―国家提訴)条項の問題点が指摘されている。メキシコ政府が米国のメタルクラッド社に、同社が設置した廃棄物処理場が飲料水の水源を脅かすとして閉鎖を命じたのに対して、メタルクラッド社はISD条項を利用してメキシコ政府を世界銀行傘下の「国際投資紛争解決センター」という第三者機関に訴えた。
そしてなんとこの「第三者機関」は公共の利益よりも資本家の利益を優先し、メキシコ政府に1560万㌦の損害賠償を命じた。このように多国籍企業がNAFTA加盟の各国による環境や公衆衛生に関する規制を破壊しようとする例が多発している。
そもそもISD条項なるものは関税撤廃に合意した各国政府が公共性を口実にして外国資本を閉め出すことに対する救済策が必要だというアメリカ帝国主義の言い分のもとに導入されたものだが、実際には企業による損害賠償請求や請求するという脅しにより、脅される国の国内政策形成に「萎縮効果」をもたらし、アメリカ資本の都合のいいように国内政策がねじ曲げられることになっている。
現にアメリカとニュージーランドの間のFTAでは、アメリカ資本であるワーナー社は映画のニュージーランドでの製作を取りやめると脅かすことにより、労働関係法を改悪させ、映画産業労働者の権利を剥奪する事態が生じた。
さらにペルー政府はFTAの批准投票のすぐ後に、中小企業労働者の時間外労働補償と年次休暇を切り下げてしまった。
以下、各国の労働組合がTPP反対を唱えるに至った具体的事実を暴露しよう。
NAFTAはアメリカ、カナダ、メキシコの3カ国の間で1994年に発効した自由貿易協定だが、その結果アメリカ国内では76万6千人の雇用が奪われた。一方、メキシコでは多くのアメリカ企業が進出することで21%も賃金水準が低下した。
さらにNAFTAの結果設定されたマキラドーラなどの輸出加工区(EPZ)や特区では税などの優遇だけでなく、団結権が制限されていたり、労働基準や環境基準が他の地域よりも弱められていて、それで外国企業を誘致しようという例が少なくない。
その上で、NAFTAで導入されたISD(投資家―国家提訴)条項の問題点が指摘されている。メキシコ政府が米国のメタルクラッド社に、同社が設置した廃棄物処理場が飲料水の水源を脅かすとして閉鎖を命じたのに対して、メタルクラッド社はISD条項を利用してメキシコ政府を世界銀行傘下の「国際投資紛争解決センター」という第三者機関に訴えた。
そしてなんとこの「第三者機関」は公共の利益よりも資本家の利益を優先し、メキシコ政府に1560万㌦の損害賠償を命じた。このように多国籍企業がNAFTA加盟の各国による環境や公衆衛生に関する規制を破壊しようとする例が多発している。
そもそもISD条項なるものは関税撤廃に合意した各国政府が公共性を口実にして外国資本を閉め出すことに対する救済策が必要だというアメリカ帝国主義の言い分のもとに導入されたものだが、実際には企業による損害賠償請求や請求するという脅しにより、脅される国の国内政策形成に「萎縮効果」をもたらし、アメリカ資本の都合のいいように国内政策がねじ曲げられることになっている。
現にアメリカとニュージーランドの間のFTAでは、アメリカ資本であるワーナー社は映画のニュージーランドでの製作を取りやめると脅かすことにより、労働関係法を改悪させ、映画産業労働者の権利を剥奪する事態が生じた。
さらにペルー政府はFTAの批准投票のすぐ後に、中小企業労働者の時間外労働補償と年次休暇を切り下げてしまった。
米韓の労働者も米韓FTAに反対を表明
これらの事実を前にして、アメリカでもTPP反対運動が起こっている。9月5日アメリカのレーバーデー(アメリカのメーデーにあたる日)に労組活動家によるTPP反対のデモが闘われた。
彼らはTPPが成立すると医薬品の特許権が強化されることで製薬メーカーが薬価をつり上げることが可能となり、患者が薬を手に入れられなくなるとしてTPPに反対しているAIDS(後天性免疫不全症候群)患者救援運動を行っている活動家とも一緒になって「TPPは企業の強欲だ」「AIDS用の薬は命だ」と書かれた横断幕を掲げて8回目のTPP交渉が行われたシカゴのヒルトンホテルに向かってデモ行進をした。
さらに、アメリカの帝国主義的労働運動そのものでしかないAFL―CIO(アメリカ労働総同盟・産業別組合会議)ですら5月段階では韓国の民主労総とともに「FTAは労働者、消費者、環境を犠牲にして多国籍企業の権利と特権を拡張させ続けるだけだ」として米韓FTA反対を主張したほどである。
実際米韓FTAはすでに述べたISD条項だけでなく、ラチェット条項(一度開放されればいかなる場合にも戻せないという逆進防止装置) や非違反提訴(海外投資家の期待利益に達し得ない場合に一方的に国を提訴可能)、公共企業の完全民営化などを毒素条項として持っている。 実際米韓FTAはすでに述べたISD条項だけでなく、ラチェット条項(一度開放されればいかなる場合にも戻せないという逆進防止装置) や非違反提訴(海外投資家の期待利益に達し得ない場合に一方的に国を提訴可能)、公共企業の完全民営化などを毒素条項として持っている。
民主労総は、11月13日に開いた「全国労働者大会」をキャンドル市民とともにする韓米FTA阻止闘争に転換することを決め、全面的な米韓FTA粉砕闘争に決起している。そして民主労総の全国労働者大会に動労千葉派遣団は合流してともに闘った。
このように世界的に反対論が強く国会でも論戦になっているISD条項について野田政権は、「日本が訴えられる可能性も排除できないが、海外進出した日本企業が当該国の政策変更等で損害を受けたとき、ISD条項で問題解決を図ることが可能になる」などとその必要性を主張している。これは日帝資本が米帝と組んでアジア諸国に新植民地主義的に侵略していこうということである。
日帝・野田は10月に「TPP協定交渉の分野別条項」と題して日帝が掌握している限りでのTPP交渉の現段階の内容を発表した。その中で労働条項については「貿易や投資の促進のために労働基準を緩和すべきでないこと等について定める」と述べ、労働者階級への影響はないとしているが現実は先に述べたとおりであり、真っ赤なうそだ。
建前として掲げている労働基準の規制緩和制限なるものも、その基準はあくまでもアメリカ的基準でしかない。小泉政権時代にそうであったように、アメリカで合法化されているホワイトカラーエグゼンプション(事務職労働者の労働時間規制の全面撤廃)や派遣労働の全面解禁などを、投資の自由を掲げて強要してくるのは間違いない。
(写真 「TPPは企業の強欲だ」と書かれた横断幕を掲げ、TPP交渉の会場に向かってデモをするアメリカの労組活動家【2011年9月5日 シカゴ】)
彼らはTPPが成立すると医薬品の特許権が強化されることで製薬メーカーが薬価をつり上げることが可能となり、患者が薬を手に入れられなくなるとしてTPPに反対しているAIDS(後天性免疫不全症候群)患者救援運動を行っている活動家とも一緒になって「TPPは企業の強欲だ」「AIDS用の薬は命だ」と書かれた横断幕を掲げて8回目のTPP交渉が行われたシカゴのヒルトンホテルに向かってデモ行進をした。
さらに、アメリカの帝国主義的労働運動そのものでしかないAFL―CIO(アメリカ労働総同盟・産業別組合会議)ですら5月段階では韓国の民主労総とともに「FTAは労働者、消費者、環境を犠牲にして多国籍企業の権利と特権を拡張させ続けるだけだ」として米韓FTA反対を主張したほどである。
実際米韓FTAはすでに述べたISD条項だけでなく、ラチェット条項(一度開放されればいかなる場合にも戻せないという逆進防止装置) や非違反提訴(海外投資家の期待利益に達し得ない場合に一方的に国を提訴可能)、公共企業の完全民営化などを毒素条項として持っている。 実際米韓FTAはすでに述べたISD条項だけでなく、ラチェット条項(一度開放されればいかなる場合にも戻せないという逆進防止装置) や非違反提訴(海外投資家の期待利益に達し得ない場合に一方的に国を提訴可能)、公共企業の完全民営化などを毒素条項として持っている。
民主労総は、11月13日に開いた「全国労働者大会」をキャンドル市民とともにする韓米FTA阻止闘争に転換することを決め、全面的な米韓FTA粉砕闘争に決起している。そして民主労総の全国労働者大会に動労千葉派遣団は合流してともに闘った。
このように世界的に反対論が強く国会でも論戦になっているISD条項について野田政権は、「日本が訴えられる可能性も排除できないが、海外進出した日本企業が当該国の政策変更等で損害を受けたとき、ISD条項で問題解決を図ることが可能になる」などとその必要性を主張している。これは日帝資本が米帝と組んでアジア諸国に新植民地主義的に侵略していこうということである。
日帝・野田は10月に「TPP協定交渉の分野別条項」と題して日帝が掌握している限りでのTPP交渉の現段階の内容を発表した。その中で労働条項については「貿易や投資の促進のために労働基準を緩和すべきでないこと等について定める」と述べ、労働者階級への影響はないとしているが現実は先に述べたとおりであり、真っ赤なうそだ。
建前として掲げている労働基準の規制緩和制限なるものも、その基準はあくまでもアメリカ的基準でしかない。小泉政権時代にそうであったように、アメリカで合法化されているホワイトカラーエグゼンプション(事務職労働者の労働時間規制の全面撤廃)や派遣労働の全面解禁などを、投資の自由を掲げて強要してくるのは間違いない。
(写真 「TPPは企業の強欲だ」と書かれた横断幕を掲げ、TPP交渉の会場に向かってデモをするアメリカの労組活動家【2011年9月5日 シカゴ】)