TPPの正体は階級戦争
もともと8月にTPP交渉会合を行う予定はなかったが、米帝の強い要望により緊急で開催されることとなり、議長席には開催国ブルネイではなく米通商代表部(USTR)のフロマン代表が座るという異例の運びとなった。
今回は21の交渉分野のうち、難航しているとされる10分野が集中的に協議された。そして23日発表の共同声明には、米帝の強い意向を反映して「年内妥結に向け交渉を加速する」と明記され、10月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳級会議で大筋合意、12月末に最終合意をめざすとされた。
また、12カ国の交渉官が一堂に会する「全体会合」は今回をもって最後とし、以後は出席国を絞った小規模会合で交渉を進めると決定された。遅れて参加した日帝に交渉の余地を与えず、時間切れをちらつかせて譲歩を迫る米帝の戦略があからさまになった形だ。
今回、日本政府は「貿易自由化率(全貿易品目の中で関税を完全に撤廃する品目の割合)は80%台を維持する」と掲げて会合に臨んだが、フロマン代表は23日の電話会見で「関税の完全撤廃が参加国のめざすべき目標だ」と通告し、日本の意向を一蹴した。もともとフロマンは「日本の農業に関し、(特定品目について)前もって除外することに同意したことはない」(7月18日、米下院歳入委員会が開催した公聴会での発言)と明言し、「例外扱いが認められた」とする安倍政権のデマ宣伝をきっぱりと否定していた。
さらに今会合では、シンガポール、ペルー、チリの3カ国が自国への輸入品にかかる関税の100%撤廃を提案し、日本に対してきわめて高い水準での自由化を要求した。
これを受けて日本政府は、26日の利害関係団体を集めた説明会で「関税交渉は大変厳しい」と認めざるを得なくなり、自由化率も90%台を視野に入れる方針に転換することを余儀なくされた。最終的には98%前後になるとの見方が有力だ。
その上、日本は今回、肝心の米やオーストラリアとの関税交渉を見送られ、9月下旬に先送りとされた。10月大筋合意となれば残された時間は1カ月もない。もはや絶望的な立ち遅れだ。
他方、安倍政権が「攻めどころ」と位置づけた工業製品の輸出は、カナダやオーストラリアなど複数国から抵抗を受けている。この分野では、4月の日米事前協議で米帝に大幅譲歩した(日本車の関税撤廃は最大限延期するとした)ことが影響し、その他の国々も態度を硬化しているためだ。
いずれにせよ日帝の惨敗は明らかであり、「交渉力で聖域を確保できる」という安倍のペテンも今や明白となった。
21の交渉分野の一つである「競争政策」の内容として、米帝などが今回から強く要求しているのが「国有企業の優遇措置の撤廃」である。今会合に先立ち、米や豪などが参加国に示した合意文書案では、政府が50%超の議決権を保有する企業を「国有企業」と定義し、「民間企業の海外投資の障害となっている」との理由で各国政府に国有企業と民間企業の差別を禁じ、税制上の優遇措置などを3~5年以内に撤廃するよう求めている。米帝資本によるアジア市場への投資・参入を容易にするとともに、各国政府に国有企業の民営化を余儀なくさせる露骨な新自由主義政策だ。
ベトナムやマレーシアなど国有企業の多い国々はこれに反発。とくにマレーシアのマハティール元首相は26日、「TPPは、経済成長を続ける中国の脅威に対抗するため、アジア太平洋地域の国々を自国の勢力圏に取り込もうとするアメリカの企てにすぎない」「TPPに署名すれば、外国の干渉なしでは国家としての決定ができなくなり、再び植民地化を招く」と激しく非難した。
ここで最大の焦点となるのが、日本政府が100%株を保有する日本郵政だ。米帝は4月の日米事前協議の場で、日本がTPPに参加する条件として、日本郵政の子会社・かんぽ生命とアメリカンファミリー生命保険(アフラック)との提携(全国2万の郵便局と79のかんぽ生命直営店でアフラックの商品を販売することなど)を日本側に認めさせた。だが、米帝はさらに8月上旬の日米並行協議の場でも「日本郵政グループの保険事業には民間企業と平らな土俵がない」と批判し、さらなる改革を求めた。今会合で示された「国有企業の優遇措置の撤廃」は、日本の保険市場を露骨に意識した内容だ。
「(日本郵政が)TPPで国有企業と認定されれば、経営の手足を縛られる」「(それを逃れるためには)株式上場の前倒ししかない。上場を果たすには、海外の投資家から『稼ぐ力がある』と見なされる必要がある」(日経新聞8・25付朝刊)。この間の日本郵政によるアフラックとの提携や、大幅賃下げ・非正規職化をもたらす「新人事・給与制度」「新一般職」の導入は、TPP交渉を背景に一切の矛盾を現場労働者に押しつけ、株式上場=完全民営化を急ぐ狙いがある。
また、TPPの交渉分野の一つに、政府や地方自治体が発注する公共事業への参入を外国企業に開放する「政府調達」がある。今回のブルネイ会合で、日帝・安倍政権が米国などに対し積極的に市場開放を要求しているのがこの分野だ。「日本は米国に妥協を迫るための攻め手をあまり持っていない。そこで、政府調達で強気の姿勢をとり続ける戦略をとっている」(朝日新聞8・25付朝刊)。だが、これが合意されれば、日本をはじめすべての参加国で公共事業の発注をめぐる外資との競争が激化し、とくに地方自治体から事業を受注してきた地域の中小企業は軒並み破綻に追い込まれる。安倍はそれを百も承知でTPP交渉のカードとして政府調達を外資へと売り飛ばそうとしているのだ。
このように、TPPの本質は徹頭徹尾、規制緩和・民営化を軸に社会全体を競争原理にたたき込む新自由主義政策であり、1%の大企業の利益のためにその他の99%を犠牲にするものだ。
--------------------- ![イメージ 1]()
関税交渉で日帝の敗勢あらわ民営化・規制緩和との闘いに

8月22日からブルネイの首都バンダルスリブガワンで始まったTPP(環太平洋経済連携協定)交渉の第19回閣僚会合において、日本帝国主義の絶望的敗勢はいよいよ明白となった。同時にTPPの本質が、一握りの大企業が延命するための徹底的な規制緩和・民営化を軸とする新自由主義攻撃であり、労働者と農民・漁民に対する階級戦争であることがますます明らかになった。国鉄闘争を基軸に今秋決戦を切り開き、階級的労働運動と国際連帯でTPPを粉砕しよう。
(表 ブルネイ会合で議論される10分野の課題)
(表 ブルネイ会合で議論される10分野の課題)
“聖域確保”という安倍のウソとペテン
今回のブルネイ会合では、米帝による対日争闘戦=日帝ねじ伏せの意図がむき出しになり、中でも関税交渉における日帝の敗勢が明白になった。もともと8月にTPP交渉会合を行う予定はなかったが、米帝の強い要望により緊急で開催されることとなり、議長席には開催国ブルネイではなく米通商代表部(USTR)のフロマン代表が座るという異例の運びとなった。
今回は21の交渉分野のうち、難航しているとされる10分野が集中的に協議された。そして23日発表の共同声明には、米帝の強い意向を反映して「年内妥結に向け交渉を加速する」と明記され、10月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳級会議で大筋合意、12月末に最終合意をめざすとされた。
また、12カ国の交渉官が一堂に会する「全体会合」は今回をもって最後とし、以後は出席国を絞った小規模会合で交渉を進めると決定された。遅れて参加した日帝に交渉の余地を与えず、時間切れをちらつかせて譲歩を迫る米帝の戦略があからさまになった形だ。
今回、日本政府は「貿易自由化率(全貿易品目の中で関税を完全に撤廃する品目の割合)は80%台を維持する」と掲げて会合に臨んだが、フロマン代表は23日の電話会見で「関税の完全撤廃が参加国のめざすべき目標だ」と通告し、日本の意向を一蹴した。もともとフロマンは「日本の農業に関し、(特定品目について)前もって除外することに同意したことはない」(7月18日、米下院歳入委員会が開催した公聴会での発言)と明言し、「例外扱いが認められた」とする安倍政権のデマ宣伝をきっぱりと否定していた。
さらに今会合では、シンガポール、ペルー、チリの3カ国が自国への輸入品にかかる関税の100%撤廃を提案し、日本に対してきわめて高い水準での自由化を要求した。
これを受けて日本政府は、26日の利害関係団体を集めた説明会で「関税交渉は大変厳しい」と認めざるを得なくなり、自由化率も90%台を視野に入れる方針に転換することを余儀なくされた。最終的には98%前後になるとの見方が有力だ。
その上、日本は今回、肝心の米やオーストラリアとの関税交渉を見送られ、9月下旬に先送りとされた。10月大筋合意となれば残された時間は1カ月もない。もはや絶望的な立ち遅れだ。
他方、安倍政権が「攻めどころ」と位置づけた工業製品の輸出は、カナダやオーストラリアなど複数国から抵抗を受けている。この分野では、4月の日米事前協議で米帝に大幅譲歩した(日本車の関税撤廃は最大限延期するとした)ことが影響し、その他の国々も態度を硬化しているためだ。
いずれにせよ日帝の惨敗は明らかであり、「交渉力で聖域を確保できる」という安倍のペテンも今や明白となった。
郵政と自治体を外国資本に売り渡す政府
ブルネイ会合で今ひとつ明らかになった重大事態は、TPPにおける最大の問題が民営化にあるということだ。21の交渉分野の一つである「競争政策」の内容として、米帝などが今回から強く要求しているのが「国有企業の優遇措置の撤廃」である。今会合に先立ち、米や豪などが参加国に示した合意文書案では、政府が50%超の議決権を保有する企業を「国有企業」と定義し、「民間企業の海外投資の障害となっている」との理由で各国政府に国有企業と民間企業の差別を禁じ、税制上の優遇措置などを3~5年以内に撤廃するよう求めている。米帝資本によるアジア市場への投資・参入を容易にするとともに、各国政府に国有企業の民営化を余儀なくさせる露骨な新自由主義政策だ。
ベトナムやマレーシアなど国有企業の多い国々はこれに反発。とくにマレーシアのマハティール元首相は26日、「TPPは、経済成長を続ける中国の脅威に対抗するため、アジア太平洋地域の国々を自国の勢力圏に取り込もうとするアメリカの企てにすぎない」「TPPに署名すれば、外国の干渉なしでは国家としての決定ができなくなり、再び植民地化を招く」と激しく非難した。
ここで最大の焦点となるのが、日本政府が100%株を保有する日本郵政だ。米帝は4月の日米事前協議の場で、日本がTPPに参加する条件として、日本郵政の子会社・かんぽ生命とアメリカンファミリー生命保険(アフラック)との提携(全国2万の郵便局と79のかんぽ生命直営店でアフラックの商品を販売することなど)を日本側に認めさせた。だが、米帝はさらに8月上旬の日米並行協議の場でも「日本郵政グループの保険事業には民間企業と平らな土俵がない」と批判し、さらなる改革を求めた。今会合で示された「国有企業の優遇措置の撤廃」は、日本の保険市場を露骨に意識した内容だ。
「(日本郵政が)TPPで国有企業と認定されれば、経営の手足を縛られる」「(それを逃れるためには)株式上場の前倒ししかない。上場を果たすには、海外の投資家から『稼ぐ力がある』と見なされる必要がある」(日経新聞8・25付朝刊)。この間の日本郵政によるアフラックとの提携や、大幅賃下げ・非正規職化をもたらす「新人事・給与制度」「新一般職」の導入は、TPP交渉を背景に一切の矛盾を現場労働者に押しつけ、株式上場=完全民営化を急ぐ狙いがある。
また、TPPの交渉分野の一つに、政府や地方自治体が発注する公共事業への参入を外国企業に開放する「政府調達」がある。今回のブルネイ会合で、日帝・安倍政権が米国などに対し積極的に市場開放を要求しているのがこの分野だ。「日本は米国に妥協を迫るための攻め手をあまり持っていない。そこで、政府調達で強気の姿勢をとり続ける戦略をとっている」(朝日新聞8・25付朝刊)。だが、これが合意されれば、日本をはじめすべての参加国で公共事業の発注をめぐる外資との競争が激化し、とくに地方自治体から事業を受注してきた地域の中小企業は軒並み破綻に追い込まれる。安倍はそれを百も承知でTPP交渉のカードとして政府調達を外資へと売り飛ばそうとしているのだ。
このように、TPPの本質は徹頭徹尾、規制緩和・民営化を軸に社会全体を競争原理にたたき込む新自由主義政策であり、1%の大企業の利益のためにその他の99%を犠牲にするものだ。
新自由主義と対決しTPPを粉砕しよう
安倍は参院選直後の7月26日、外遊先のシンガポールで講演し、次のように主張した。
「必要なのは規制の大胆な改革です。TPP交渉のような外部からの触媒です」「もはや岩盤のように固まった規制を打ち破るには、強力なドリルと強い刃が必要です。自分はその『ドリルの刃』になる」「電力や農業、医療分野で規制の改革を進め、新たなサービス、新しい産業を興し、日本経済の活力をそこから引き出します」「規制改革のショーケースとなる『国家戦略特区』も、強い政治力を用いて進めます」
この言葉に明らかなように、TPPにおける安倍政権のもっとも核心的な狙いは、「外圧」を利用した国内の規制緩和・民営化の推進=新自由主義攻撃である。
だが、TPP交渉は「関税」や「知的財産」など多くの分野で難航しており、年内妥結はけっして容易ではない。その根底には、新自由主義に対する国境を越えた労働者人民の広範な怒りと闘いが渦巻いている。
山本太郎参議院議員は「TPPは僕たちの生活を根底から覆すものだ。自ら乗り込んでいって、その危険性をたくさんの人たちに注目してもらいたい」と語り、ブルネイ現地に駆けつけた。TPP粉砕の正念場はまさにこれからだ。民営化と対決する階級的労働運動を基軸に、安倍政権打倒の今秋決戦に立とう。9・15総決起集会・デモの大成功をかちとり、今秋決戦に勝利しよう!〔水樹豊〕
「必要なのは規制の大胆な改革です。TPP交渉のような外部からの触媒です」「もはや岩盤のように固まった規制を打ち破るには、強力なドリルと強い刃が必要です。自分はその『ドリルの刃』になる」「電力や農業、医療分野で規制の改革を進め、新たなサービス、新しい産業を興し、日本経済の活力をそこから引き出します」「規制改革のショーケースとなる『国家戦略特区』も、強い政治力を用いて進めます」
この言葉に明らかなように、TPPにおける安倍政権のもっとも核心的な狙いは、「外圧」を利用した国内の規制緩和・民営化の推進=新自由主義攻撃である。
だが、TPP交渉は「関税」や「知的財産」など多くの分野で難航しており、年内妥結はけっして容易ではない。その根底には、新自由主義に対する国境を越えた労働者人民の広範な怒りと闘いが渦巻いている。
山本太郎参議院議員は「TPPは僕たちの生活を根底から覆すものだ。自ら乗り込んでいって、その危険性をたくさんの人たちに注目してもらいたい」と語り、ブルネイ現地に駆けつけた。TPP粉砕の正念場はまさにこれからだ。民営化と対決する階級的労働運動を基軸に、安倍政権打倒の今秋決戦に立とう。9・15総決起集会・デモの大成功をかちとり、今秋決戦に勝利しよう!〔水樹豊〕
---------------------
(表 ブルネイ会合で議論される10分野の課題)
物品市場アクセス 農業品や工業品の関税減免
知的財産 著作権などの保護と模造品の取り締まり
環境 漁業補助金の廃止など
政府調達 公共事業への外資参入
投資 ISD条項をはじめとする投資家の紛争処理手続きなど
競争 国有企業の優遇措置の廃止など
金融サービス 多国籍間の金融取引のルール
原産地規制 関税減免の対象となる「締約国の原産品」と認められる基準
一時的入国 出入国手続きの迅速化
非適合措置 サービスと創始の分野で例外措置をとれるエリアを協議
知的財産 著作権などの保護と模造品の取り締まり
環境 漁業補助金の廃止など
政府調達 公共事業への外資参入
投資 ISD条項をはじめとする投資家の紛争処理手続きなど
競争 国有企業の優遇措置の廃止など
金融サービス 多国籍間の金融取引のルール
原産地規制 関税減免の対象となる「締約国の原産品」と認められる基準
一時的入国 出入国手続きの迅速化
非適合措置 サービスと創始の分野で例外措置をとれるエリアを協議