《書庫迷言「公安に監視される奴は悪人」》
盗聴法拡大。司法取引導入。
日弁連執行部も容認していると言うのだからお話にならない。
日弁連も闘え!!
「人権の日弁連」の名が泣くぞ!
闘わないなら返上しろ!!
市民のプライバシーを侵害し、市民への監視を強める盗聴法の大幅拡大に強く反対する 海渡 雄一(弁護士)
内容
はじめに
政府は、3月13日盗聴法の拡大と司法取引をふくむ刑事訴訟法等一部「改正」案を閣議決定し、国会に法案を提出した。5月連休明けに戦争法案と同時期に審議入りし、同法を成立させようとしていると見なければならない。
私は、17年前に提案された盗聴法案の反対運動に必死で取り組んだ。この時は、日弁連は盗聴法は憲法31条の適正手続、35条の令状主義に反するとして、大反対運動を展開した。法律は可決されたが、反対運動の結果、対象犯罪が狭く限定され、NTT職員の立会などの手続きも定められたため、盗聴件数は、少しずつ増えているが、爆発的な件数にはなっていない。日本では、過去に共産党の緒方国際局長宅の盗聴事件が暴かれた例はあるが、今も非合法的な捜査機関による盗聴が行われているかどうかはわからない。しかし、合法的な盗聴には一定の歯止めがかかった状態で推移してきた。
それが、今回の法改正によって根本的に状況が変えられようとしている。警察が第三者の監視抜きに広範な犯罪を対象に盗聴捜査を展開できる法制度が作られようとしている。この拙い検討が、法案反対運動の発展に役立つことを心から願っている。
この原稿は現在の日弁連の見解とは異なる。わたしの個人的な見解である。
しかし、全国で19の単位弁護士会からは、同様の意見表明がなされており、刑事手続きにおける人権保障に取り組んできた多くの弁護士は、この制度の拡大に強い危機感を持っている。
今日5月14日に行われた超党派国会議員の院内学習会は、山本太郎さんの民主党、維新の党、共産党、社民党の議員が参加し、この刑事訴訟法等一部「改正」案の取調の可視化を定める部分にも可視化される事件の範囲が限定的で、任意調べが除かれていること、広範な例外規定があり、逆に取調の真相が隠される危険性があること、司法取引、刑事免責には自己の刑事責任を免れるために無実の者を事件に引っ張り込む危険性があることも指摘された。そして、とりわけ盗聴法の拡大について、多くの国会議員から反対の意見が示された。
第1 国会に提出された法案の内容とその問題点
1 犯罪捜査のための通信傍受の対象事件の範囲の拡大
今回の通人傍受法の改正は、オレオレ詐欺、振り込め詐欺の被害が大変増えており、これを撲滅する為にも、盗聴に対する対象犯罪を増やす必要があると説明されてきた。もともと盗聴対象犯罪は限定されていた。現在、盗聴できる犯罪は、薬物、銃器、組織的殺人、集団密航の4つの犯罪に限定されてきた。ところが、今度は新たに、9つの犯罪が追加された。
法案では、新たに付け加えられる盗聴対象犯罪として、爆発物の使用、現住建造物等放火、殺人、傷害・傷害致死、逮捕及び監禁、逮捕等致死傷、誘拐関係、窃盗、強盗、詐欺、電子計算機使用詐欺、恐喝、児童買春、児童ポルノなどが付け加えられた。この中の窃盗と詐欺は刑務所に入っている人の数でいえば、圧倒的な多数で、犯罪件数が年間100万件を超えている。
一応、「当該罪に当たる行為が、あらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体により行われるものに限る。」とされているが、犯人が同一組織に属している必要性すらなく、共犯事件であれば、どれでも当たるほど緩い要件である。この規定の新設で盗聴ができる範囲が爆発的に拡がることは疑いない。
2 暗号技術を活用する新たな傍受の実施方法の導入
現在の制度では、盗聴するためには、NTT職員などの立会人が必要とされてきた。立会人とは、盗聴を行う際に立ち会う人のことであり、この制度が盗聴手続きの拡大の事実上の歯止めとなっていた。
これまで通信傍受にはNTT職員などの第三者が立ち会い、令状に記載された通信回線だけの傍受しか行われていないことを監視してきた。
ところが、この改正法案では、この立会人の必要のない、あらたな盗聴方法が盛り込まれている。暗号化をすることで、改ざんを防ぐことができると説明されている。この場合には、外部の人間の立会がない状態で、都道府県の警察本部や検察庁で直接盗聴できることとなっている。
18弁護士会の会長が連名で公表した声明によれば、「従来の通信傍受法の運用において,この常時立会という手続があることで,「他の方法によっては,犯人を特定し,又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難であるとき」という補充性の要件が実務的に担保されてきたものである。
しかし,答申のような手続の合理化・効率化がなされれば,捜査機関は令状さえ取得すれば簡単に傍受が可能となるので,安易に傍受捜査に依存することになることは必至であり,補充性要件による規制が実質的に緩和されることとなり, 濫用の危険は増加する。」と指摘されている。このとおりである。
3 不可欠な第三者機関も設置されていない
個人のプライバシーの侵害される恐れがある捜査方法をどうしても拡大したいとすれば、人権侵害が起こらないようにするために、最低限、弁護士など警察外部の人間で構成される第三者機関などを作り、チェックする仕組みが不可欠である。
しかし、政府は、このようなシステムの導入に前向きでなく、盗聴対象者に対して、後日、直接、通知がされ、これに対して不服申立ができる制度で十分であると説明した。
山本太郎議員が内閣委員会で、何件の通知を出して、何件の不服申し立てがあったのか、質問した。答弁した警察庁刑事局長は、通知した件数は把握しておらず、不服申し立ての数は、過去に一件との答えであった。
このようなシステムで十分な保護措置とは到底考えられない。客観的に正当な判断をしてくれる第三者機関がどうしても必要である。
この法案に反対していない日弁連も、3月18日付会長声明において、「通信傍受が通信の秘密を侵害し、ひいては個人のプライバシーを侵害する捜査手法であることから、人権侵害や制度の濫用について危惧の念を禁じ得ない。当連合会としては、補充性・組織性の要件が厳格に解釈運用されているかどうかを厳しく注視し、必要に応じ、第三者機関設置などの制度提案も検討する。」と意見を述べている。
第三者機関の設置は、国連人権理事会への特別報告者も強調している[1]。このレポートの38paraでは、司法機関や国会の委員会だけでなく、法執行機関による監視措置に対して厳しく助言やモニターする独立機関の必要性が強調されている。
第2 盗聴法立法の違憲性をめぐる論争
ここで、通信傍受法が最初に制定された時の論争を振り返っておくことは有益であろう。1998年3月、通常国会に通信傍受法を含む「組織的犯罪対策三法案」が提出された。
我々は、まず、盗聴捜査が憲法に違反しないかどうかを論じた。憲法35条は「正当な理由に基づいて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状」を要求している。盗聴が個人の内心の秘密に対する著しい侵害性を持つにもかかわらず、すでに存在している犯罪の証拠物件を対象とするのではなく、これから話される個人の会話を対象とするため、強制処分の範囲がまったく特定されないという特質を持っているからである。
法務省の提案の理論的支柱とされた井上正仁教授の見解は、盗聴についても憲法35条により特定性が必要としながら、そもそも押収物の表示の特定は抽象的、概括的なものとならざるをえないとし、まだ存在もしていない会話の盗聴について、裁判官から見たとき既に発生した事件の存否の判断も将来発生するかもしれない事件についての予測も「蓋然性判断」としては共通であるとし、「本件犯行に関係する通信ないし会話」という表示でも特定性は満たされているとしたのである*[2]。
捜査の便宜の前に令状主義による押収対象の特定の要請を事実上否定したものであり、憲法35条を有名無実化する考え方であった。
(つづく)
関連記事